ITJ Lab
← 判例ウォッチ 2026.10.18

最高裁判所第二小法廷 令和8年10月9日 令和6(受)2078 判決・上告棄却

著作物に当たらない楽譜を細部まで模倣して制作し、ウェブサイトで無料公開した行為が、不法行為を構成するとした原審の判断を是認した。

損害賠償請求事件

事案
楽譜出版社である被上告人は、多大な費用等をかけて自ら採譜をして、579曲のバンドミュージックの楽譜を制作し、販売していた。被上告人の楽譜は、著作権法2条1項1号にいう著作物には当たらない。競業者である上告人会社は、少なくとも約6年半にわたり、自ら採譜をすることなく被上告人の楽譜に依拠して、その全体を細部まで模倣した楽譜を制作し、自社のウェブサイトで無料公開して広告料収入を得ていた。被上告人の売上げは、公開期間中に大幅に減少した年度があった。被上告人は、営業を妨害されたとして、上告人会社とその代表取締役に対し、共同不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
争点
著作物に当たらない楽譜を模倣して利用する行為は、どのような場合に不法行為を構成するか。
判断
著作物に当たらないものについて、著作物の利用行為に相当する行為は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成しないとした(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決参照)。そのうえで、上記行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱して営業を妨害し、営業上の利益を侵害するものといえるときは、楽譜を独占的に利用する利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するものとして、上記の特段の事情があるとした。本件では、被上告人が多大な費用等をかけて採譜していたこと、上告人会社が長期間にわたり多数の楽曲について楽譜を模倣して制作費用の負担を免れ、無料公開によって営業を継続していたこと、被上告人から容易に顧客を奪取し営業の継続に直接的かつ重大な悪影響を及ぼすものであり、上告人らがそれを認識していたこと、同様の行為が許容されると公正な競争秩序が害されかねないことなどを総合し、本件行為は、著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為であるとして、不法行為を構成するとした。裁判官全員一致の意見であり、2名の裁判官の補足意見がある。その要点は、一方は、著作権法による保護の対象とされていない成果物の利用行為が不法行為となるには、公正な競争秩序と模倣の自由とのバランスを考慮して検討する必要があり、本件の行為は自由競争の範囲を逸脱する営業妨害行為と評価できるというものである。他方は、新たな営業形態が社会の活力の源泉となる積極的意義も考慮すべきであるが、本件は従来のビジネスモデルの成果に便乗しながら新たなビジネスモデルの果実を独占的に収受したものであり、不法行為責任を認めるのが妥当であるというものである。
関係条文
著作権法2条1項1号
判示事項
著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないバンドスコアを模倣するなどした行為が不法行為を構成するとされた事例(裁判所ウェブサイトの記載)

この判例の詳細解説を読む →

この判例の解説記事を読む →

English summary

同じ法令が関係する判例

法令別の一覧 →

裁判所ウェブサイトの「最近の裁判例」に新しく掲載された裁判例を、週に一度、要旨にまとめています。裁判所が作成した要旨ではありません。要約の過程で、誤りや抜けが生じることがあります。引用や判断の根拠にする前に、必ず裁判所ウェブサイトの全文を確認してください。掲載は網羅的ではなく、個別の事案についての法的助言でもありません。