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東京地方裁判所民事第47部 令和8年8月7日 令和7(ワ)70231 判決・請求棄却

診療所の名称について、不正競争防止法上の混同惹起行為に当たるとする差止請求を、両名称は類似せず混同のおそれもないとして棄却した。

不正競争行為差止請求事件

事案
医療法人社団である原告は、ある駅の近くで診療所を経営し、駅名にあたる地名と「クリニック」を組み合わせた名称(原告表示)を営業表示として使用している。同じく医療法人社団である被告は、同じ駅の近くで、その地名に「駅前」と「クリニック」を組み合わせた名称(被告表示)の診療所を、令和6年12月から経営している。原告は、原告表示は周知な営業表示であり、被告表示は類似して混同を生じさせるから、被告の使用は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張し、同法3条1項に基づき、被告表示の使用の差止めを求めた。
争点
原告表示と被告表示は類似するか。両者の間に混同のおそれがあるか。
判断
裁判所は、事案に鑑み、争点のうち類似性と混同のおそれを先に判断し、原告表示と被告表示は類似せず、混同のおそれもないとして、その余の点(原告表示の周知性、同法19条1項1号の適用除外事由)は判断せずに請求を棄却した。類似性について、裁判所は次のとおり判断した。原告表示は「地名」と「クリニック」から成り、被告表示はこれに「駅前」が付加されたものである。「地名」は診療所の所在地を示し、「クリニック」は診療所を表す一般的な名称であるから、いずれも格別の識別力がない。「駅前」も、駅の近辺の施設の名称に一般的に使われるから、格別の識別力はない。原告は、15年以上の使用や診療実績から、原告表示は地名と普通名称の組合せを超える意味をもつと主張した。これに対し、裁判所は、原告の診療所の存在と名称が駅周辺の地域で一定程度の知名度を有していること自体は否定し難いとした。しかし、同診療所は住宅地にある個人医院で、診療科目や診療日にも特異な点はなく、原告が提出した調査報告書でも認知度は2、3割にとどまるから、極めて高い知名度を有するとも、原告表示から同診療所を具体的に想起する者が多数いるともいえないとした。そして、両表示は識別力のない語の組合せであるから全体を一体として比べるべきであり、共通部分は需要者の注意を惹く部分とはいえず、被告表示には「駅前」が付加され、駅により近く利便性があるという印象を与えることから、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しないとした。混同のおそれについて、原告は、調査報告書で一定割合の回答者が両診療所を系列(分院)と誤認し、その理由に名称の類似を挙げたこと、及び取り違えの事例があったことを主張した。裁判所は、調査のサンプル数が小平市在住者535人、駅利用者522人であり、人口や駅の乗車人員に照らして偏りがなく十分か疑問の余地があること、系列(分院)と思うと答えた者は各設問で100人未満で、約9割(設問によっては約8割)の回答者は系列(分院)ではない又は分からないと答えていることから、調査結果から直ちに混同のおそれは認められないとした。また、取り違え等の事例は、被告の診療所の開設直前の時期から約13か月の間に35件で、原告の患者数に照らして特に多いとはいえず、原告に深刻な被害が生じていることを認める証拠もなく、被告が原告表示の知名度に便乗する目的で被告表示を決めたと認める証拠もないとした。
関係条文
不正競争防止法2条1項1号、3条1項、19条1項1号

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