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福岡地方裁判所第5民事部 令和8年9月3日 令和6(ワ)2339 判決・一部認容(一部棄却)
勤務時間外の飲酒運転による人身事故を理由とする郵便配達員の懲戒解雇について、飲酒運転の故意は認められず、懲戒規程に反して懲戒権を濫用したものとして無効とした。
雇用契約上の地位確認等請求事件
- 事案
- 原告は、郵便事業を行う会社(被告)で郵便配達業務に従事していた。原告は、勤務時間外の令和5年2月28日朝、自家用車を運転中、信号待ちの際にブレーキペダルから足が外れて前方停止車両に追突し、運転者に加療1週間の傷害を負わせた。飲酒検知で呼気1リットル当たり0.53mgのアルコールが検出された。原告は前夜に飲酒していた。原告は、検察官により、過失運転致傷は起訴猶予、道路交通法違反は嫌疑不十分で不起訴とされたが、被告から懲戒解雇され、退職手当の7割を不支給とされた。原告は、懲戒解雇の無効を主張して、地位の確認、未払賃金及び未払賞与の支払を求め、予備的に退職手当の残金882万7224円の支払を求めた。被告の懲戒標準は、故意に飲酒運転で交通事故を起こした者の量定を懲戒解雇ないし停職とする一方、飲酒運転によらない交通事故は減給ないし注意としていた。
- 争点
- 原告に飲酒運転の故意(アルコール保有の認識)があったか。懲戒解雇は量定として相当か。懲戒解雇が無効である場合の賃金額。
- 判断
- 裁判所は、原告の申告する前夜の飲酒量及び飲酒時間は、ウィドマーク式算定法によっても科学的に矛盾せず、申告の経過にも疑義はないとして認めた。呼気から検出されたアルコールの数値は故意を強く推認させる一般論があるが、残り酒の事案では、飲酒検知前後の言動、従前の飲酒習慣、刑事処分の有無、残り酒に対する当時の社会一般の認知の程度などを踏まえて判断せざるを得ないとした。原告は事故直後に自ら警察と職場に申告し、検出量も職場に伝えており、発覚を免れようとする態度はなく、飲酒量も深酒とまではいえず、不起訴となっていることも故意がないとの認定を補強するとした。被告は、情報誌等により飲酒運転根絶の取組を行っていたが、運転業務の前日の飲酒を禁じる内規は見当たらず、始業時の短時間で簡易な説明にとどまり、残り酒の認識を十分会得させる内容とはいえないとして、故意(未必を含む)を認めず、懲戒標準にいう飲酒運転で交通事故を起こした者に当たらないとした。量定について、飲酒運転によらない交通事故は減給ないし注意にとどまるから、アルコールを保有した状態で事故を起こしたことのみで懲戒解雇とするのは懲戒標準に反するとした。また、仮に未必の故意があるとしても、事故は信号待ち中に足が外れて追突したもので、アルコールが事故の発生に影響したとはいえず、被害者の傷害は軽微で示談も成立していることから、直ちに懲戒解雇が相当とはいえないとし、懲戒解雇は懲戒規程に反し懲戒権を濫用したものとして、労働契約法15条により無効とした。賃金については、民法536条2項により、基本給及び調整手当(月額合計34万8850円)並びに夏期手当及び年末手当(各78万7524円)の請求権を失わないとした。特殊勤務手当及び超過勤務手当は、運転免許取消期間中に得られた蓋然性が認められないとして退けた。予備的請求は判断を要しないとした。
- 関係条文
- 労働契約法15条、民法536条2項
同じ法令が関係する判例
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