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企画競争は「入札」に当たるか:病院の敷地内薬局をめぐる入札妨害事件、最高裁令和8年9月28日判決(令和7(あ)262)を読む

(最高裁判所第二小法廷 令和8年9月28日判決、令和7年(あ)第262号、公契約関係競売入札妨害被告事件、原判決破棄・一部控訴棄却・一部差戻し)

法律相談・法的助言ではありません。判決の全文は裁判所ウェブサイトにあります。本稿は、判決文から言えることと、第1審判決・原判決・先例を並べて読んだ整理とを、分けて書いています。

結論を先に

最高裁は、病院の敷地内に調剤薬局を整備・運営する事業者の優先交渉権者を決めるために、国家公務員共済組合連合会の内規に基づいて行われた公募型企画競争が、刑法96条の6第1項(令和4年法律第67号による改正前のもの)にいう「入札で契約を締結するためのもの」に当たるとした。企画競争は入札に当たらないとして被告人2名を無罪とした原判決(札幌高裁)を破棄し、1名については有罪とした第1審判決(札幌地裁)を維持して控訴を棄却し、もう1名については、原判決が判断しなかった事実誤認の控訴趣意を審理させるため、札幌高裁に差し戻した。裁判官全員一致の判決で、補足意見・反対意見はない。

判断の枠組みは、法令又は内規に基づく方法で契約の相手方を選ぶことが、権限ある機関によって適法に決定された場合に、その方法が「競争入札の実質を有するとき」は、「入札で契約を締結するためのもの」に当たる、というものである。最高裁は、本件の企画競争について、①応募者が互いに他の応募者の申出内容を知らないで申出をすること、②競争に付す事項が具体的に示されていること、③評価の基準と方法に客観性・公平性があること、④評価の順に契約の相手方を選ぶものであったこと、を順に認めた。優先交渉権者を決める手続にとどまるという点は、「入札で契約を締結するためのもの」に当たることを否定しないとした。

何が起きたか(事案の経過)

最高裁判決が認定した事実

最高裁判決は、第1審判決の認定と記録に基づいて、次の事実関係を示している。

  • 病院の事務部長は、敷地内薬局の開設をある調剤薬局グループの会社に依頼しようと考え、病院の管理者会議で開設の内諾を得た。事業者の選定には、国家公務員共済組合連合会の契約規程と契約事務実務指針により、公募型企画競争を実施する必要があるとされていた。病院長の決裁で、公募要領による企画競争の実施、病院長や事務部長ら7名を委員とする選定委員会の設置、採点方法等が決定され、実施が公告された。
  • 公募要領は、応募資格(設立後20年以上、400床以上の病院の敷地内薬局の運営実績など)と、企画提案書に書く8項目(①事業者の概要・経営状況、②建築基本方針、③運営方針及び実施体制、④危機管理及び災害・緊急時体制、⑤事業スケジュール、⑥収支計画、⑦月額賃借料、⑧その他自由提案)を示していた。提出後の追加・変更は認めないとされ、選定委員会が書類とプレゼンテーションで総合的に評価して優先交渉権者を決めること、その後の協議で提案内容が変更される場合があることも書かれていた。
  • 配点は非公表で、①5点、②10点、③5点、④5点、⑤5点、⑥20点、⑦30点、⑧20点の合計100点とされた。
  • 提出期限までに5社が応募し、賃借料等で、この会社の提案を上回るものが複数あった。事務部長は、期限の経過後に、この会社の支店長であった被告人に、他の事業者がより高額の賃借料等を提案していることやその概算額等を教え、提出済みの企画提案書を返して再提出を持ち掛けた。会社は修正した提案書を出し、事務部長の指摘を受けて、賃借料等の記載方法を改めた再修正の提案書を出した。
  • 1社は書類選考で不合格となり、4社がプレゼンテーションをした。⑦月額賃借料は、病院が20年間に得られる総収入1億円につき1点とする基準で、事務部があらかじめ機械的に計算した点数で採点された。7名の委員はいずれもこの会社を最高得点とし、会社は最優秀提案者に選ばれ、再修正後の提案書とほぼ同じ内容で契約を締結した。結果は、委員ごとの採点内容も含めて病院内の決裁に付され、契約は連合会の契約監視委員会への報告等の対象であった。

最高裁判決に書かれていない経過(第1審判決・原判決、報道による)

  • 第1審判決(札幌地裁 令和5年(わ)第668号)によれば、企画提案書の提出期限は令和2年12月18日午後0時で、会社は当初、月額450万円の賃借料等を記載した提案書を出していた。再提出された提案書は、月額750万円の賃借料と5億2000万円の保証金を支払うなどとする内容で、同月23日に提出された。原判決によれば、企画競争の公告は同年11月11日、プレゼンテーションは同年12月24日である。
  • 第1審では、事務部長も被告人として審理された。第1審判決は、令和6年4月18日、3名とも有罪とし、会社側の2名をそれぞれ懲役6月・執行猶予2年とした。
  • 会社側の2名が控訴し、札幌高裁は令和7年1月28日、企画競争は刑法96条の6第1項の「入札」及び「契約を締結するためのもの」に当たらないとして、第1審判決を破棄し、2名に無罪を言い渡した(令和6年(う)第93号)。検察官が上告した(最高裁判決の「検察官の上告趣意」の記載による)。
  • 最高裁第二小法廷が、令和8年9月28日に、原判決を破棄した。

争点:企画競争は「入札」に当たるか

第1審判決・原判決の整理によれば、争点は、①病院が「公の」入札等の実施主体に当たるか、②企画競争が「入札」及び「契約を締結するためのもの」に当たり、提案書の再提出が「公正を害すべき行為」に当たるか、③会社側の被告人の1名に故意と共謀が認められるか、であった。第1審は①から③のすべてを肯定した。原判決は、①については第1審の判断を相当としたが、②のうち「入札」と「契約を締結するためのもの」の該当性を否定し、③は判断しなかった。

最高裁判決が扱ったのは、②のうち、企画競争が「入札で契約を締結するためのもの」に当たるかである。検察官の上告趣意については、判例違反の主張は前提を欠くか事案を異にする判例の引用であり、その余は刑訴法405条の上告理由に当たらないとしたうえで、職権で判断している。

最高裁の判断

1 判断の枠組み

最高裁は、入札が自由競争の原理に基づいて契約の相手方を選定する方法であることに鑑みて、法令又は内規に基づく方法によって契約の相手方を選ぶことが権限ある機関によって適法に決定された場合に、その方法が「競争入札の実質を有するとき」は、刑法96条の6第1項にいう「入札で契約を締結するためのもの」に当たるとした。この部分には、括弧書きで昭和33年4月25日の最高裁第二小法廷判決が「参照」として掲げられている。

本件の企画競争は、契約の権限を持つ病院長が適法に実施を決めた、連合会の内規に基づく公募型企画競争であることが明らかだとして、競争入札の実質の有無を検討した。

2 競争入札の実質があると認めた理由

  • 競争の仕組み:応募者が、互いに他の応募者の申し出る内容を知らないで自己の申出を行うことで、競争をさせるものである。
  • 競争に付す事項:公募要領で8項目が示され、具体的である。施設の敷地の一部を賃貸して営業させるという一般的な事業であることも踏まえ、自由提案の項目を除けば、病院の経済的利益と薬局の運営に資するかという合目的的な観点から、「客観的かつ公平に優劣を比較することが可能な性質のもの」とした。応募資格が実績の豊富な法人に限られていたことも併せ、採点基準が公表されていなくても、応募者は、評価がその観点から行われると「容易に予測できた」とした。
  • 評価の基準:8項目自体が一定程度具体的な基準を示し、月額賃借料は一律の数値基準で採点された。非公表の配点も、病院の経済的利益の多寡に関連する項目を合計5割とするなど、上の観点に沿うものだった。これらから、評価の基準には「相当程度の客観性、公平性が備わっていた」とした。
  • 評価の方法:7名の評価者の得点の合計で評価し、結果が事後的な決裁等の対象とされるなど、客観性・公平性を担保する方策がとられていたことも併せ、評価方法に客観性・公平性があったとした。
  • 相手方の選び方:優先交渉権者が決まった後の交渉で、企画提案書の「契約条件を大きく変更することは予定されていなかった」から、優劣の評価の順に契約の相手方を選ぶものだったとした。

以上の事実関係の下では、本件の企画競争は競争入札の実質を有し、「入札で契約を締結するためのもの」に当たるとした。

3 優先交渉権者を決める手続であることについて

原判決は、企画競争は優先交渉権者を決めるにとどまるから「契約を締結するためのもの」に当たらないとしていた。最高裁は、この文言は、「入札で」の文言と一体として、公契約に関する96条の6第1項の構成要件と、強制執行に関する96条の4の構成要件とを「区別する趣旨のものにすぎず」、それ以上に罪の成立範囲を限定するものではないとした。優先交渉権者を決めるものであっても、そのことで「入札で契約を締結するためのもの」に当たることは否定されないとした。

4 結論

原判決には96条の6第1項の解釈適用を誤った違法があり、破棄しなければ著しく正義に反するとして、刑訴法411条1号により破棄した。支店長であった被告人については、第1審判決の判断を是認できるとして控訴を棄却した。もう1名の被告人については、原判決が判断を示さなかった事実誤認の控訴趣意について審理を尽くさせるため、札幌高裁に差し戻した。

意見

裁判官全員一致の意見による判決で、補足意見・反対意見・意見は付いていない。

先例・原判決と並べて読むと

以下は、本判決と、第1審判決・原判決・先例の文章を並べて読んだときに見える点の整理である。どちらの判断が正しいかではなく、文章を突き合わせた結果として書いている。

昭和33年4月25日の最高裁判決との言葉の重なり

昭和33年判決(昭和30年(あ)第1479号、刑集12巻6号1180頁)は、県の土木部の内規による「見積による随意契約」の方式で行われた道路工事の請負契約をめぐる談合の事件である。判決は、刑法96条ノ3(当時)にいう公の入札を、施行者が「自己に有利な契約内容を見出すため入札者をして自由競争をさせる契約締結の方法」とし、競争に付する事項について、入札者が「互に他の入札者の申し出る内容を知らないで自己の申出を行うことを要し」と述べた。そのうえで、最も有利な条件の申出を「重要の要素としつつこれにその他の条件を加味して落札者を決定することができる場合」も、「競争入札の実質を保有する」から公の入札に当たるとした。

  • 重なる点:本判決の、入札が自由競争の原理に基づいて相手方を選ぶ方法であるという前提と、応募者が互いに他の応募者の申出内容を知らないで申出をするという認定は、昭和33年判決の言い回しと重なる。内規による方式が問題になった点も共通する。
  • 本判決の文章にあって、昭和33年判決の文章にないもの:権限ある機関による適法な決定という要件、競争に付す事項の具体性、評価の基準と方法の客観性・公平性、評価の順に相手方を選ぶこと、という検討の項目。
  • 昭和33年判決の文章にあって、本判決の文章にないもの:最も有利な条件の申出を「重要の要素」とするという言い回し。本判決は、配点の5割が経済的利益の多寡に関連する項目だったことを、評価の基準が合目的的な観点に沿うものだったことの理由として挙げているが、価格的な要素が「重要の要素」かという形では書いていない。
  • 本判決は、検察官が昭和33年判決を引用して判例違反をいう点について、「同判例は所論のような趣旨まで判示したものではない」としている。所論の具体的な内容は判決文には書かれていないため、どの点を指すかは判決文からは分からない。

原判決(札幌高裁 令和7年1月28日)との比較

原判決も、昭和33年判決を手がかりに、会計法規上の競争入札の形式でなくても、競争入札の実質を具備するものは「入札」に当たるとする点では、本判決と同じ出発点に立っていた。違いは、同じ事実の評価にある。

  • 基準:原判決は、競争の対象と落札者決定基準が事前に応募者に理解可能な状態にされていることが必要で、応募者に予想困難な裁量的要素が少なからずある場合や、価格以外の要素の「ウエイトが補充的とはいえないような場合」は、競争入札の実質を具備しないとした。本判決の文章には、この二つの基準の言い回しは出てこない。
  • 非公表の配点:原判決は、配点が公表されていないので、どの項目が重視されているかを応募者は正確に把握できないとし、各項目の採点は「各委員の大幅な裁量に委ねられている」とした。本判決は、採点基準が公表されていなくても、合目的的な観点から評価が行われると応募者は「容易に予測できた」とした。
  • 7名の合計と決裁:原判決は、拠るべき審査基準がない中での採点を合計しても客観性・公平性は保たれず、決裁や契約監視委員会の点検も担保にならないとした。本判決は、これらを客観性・公平性を担保する方策として評価した。
  • 月額賃借料の採点:原判決は、「1億円1点では応募者間の差が付きにくい」こと、提案された土地面積に差があるのに総額で比べたこと、20年間の賃借料総額に保証金を単純合算したことなどを挙げ、応募者が容易に想定できる基準で採点されたとは認められないとした。本判決は、月額賃借料が一律の数値基準で採点されたことを、基準の客観性の理由の一つとした。原判決が挙げた面積の差や保証金の合算については、本判決の文章には言及がない。
  • 「契約を締結するためのもの」:原判決は、提案書の提出は「契約締結に向けてする」とはいえても「契約を締結するためのもの」とはいえないとした。本判決は、この文言は96条の4との区別のためのものにすぎないとした。
  • 再提出の行為:原判決は、無罪の結論をとりつつ、付言として、事務部長と会社側の行為が手続の「公平を害すべき行為」であることは明らかだと述べていた。

第1審判決(札幌地裁)との比較

  • 第1審判決は、本件の企画競争を、内容面・手続面・目的の三つの面から検討し、「内容、手続及び目的等に照らして」競争入札の実質を具備すると評価した。目的の面では、病院が「競争入札と同趣旨の目的」で企画競争を実施していたとした。本判決の文章には、病院の意図や目的を理由とする部分はない。
  • 「契約を締結するためのもの」について、第1審判決は、この文言は旧96条の3のうち強制執行に関するものを96条の4として独立させた際に設けられたもので、「保護対象を制限する趣旨のものとは解されない」とした。本判決の「区別する趣旨のものにすぎず」という判断は、結論としてこれと同じ方向にある。本判決は、この点について第1審判決の理由には触れていない。
  • 第1審判決は、平成23年の刑法改正で企画競争への手当てがされなかったことや、官製談合防止法の文言との違いを根拠とする弁護人の主張を検討し、退けていた。本判決の文章には、これらの点への言及はない。

本判決が示したこと、示していないこと

  • 示したと読めるもの:96条の6第1項の「入札で契約を締結するためのもの」に当たるかの判断の枠組み(判示事項1)。優先交渉権者を決める手続であることは、それだけでは該当性を否定しないこと。
  • 事例としての判断:本件の企画競争が当たるという判断は、「以上の事実関係の下では」とされている(裁判所ウェブサイトの判示事項2も、「事例」としている)。企画競争一般が入札に当たるとは述べていない。
  • 判断していないもの:病院が「公の」入札等の実施主体に当たるか(原判決が第1審の判断を相当とした点)、再提出が「公正を害すべき行為」に当たるか、について、本判決は独自の検討を示していない。支店長であった被告人については、第1審判決の判断を是認できるとしている。

残された問い

  • 差し戻された被告人について、故意と共謀が認められるか。差戻し後の札幌高裁で審理される。
  • 本判決が挙げた4つの点(申出の秘密性、競争に付す事項の具体性、評価の基準と方法の客観性・公平性、評価順の選定)のうち、どれが欠けると競争入札の実質が否定されるのか。本判決は、本件の事実関係を総合して判断しており、個々の要素の位置づけは示していない。
  • 採点基準が公表されていない企画競争で、応募者が評価の観点を「容易に予測できた」といえるのは、どのような場合か。本判決は、事業の一般性と応募資格の限定を理由に挙げているが、それ以外の場面については述べていない。
  • 本判決は令和4年法律第67号による改正前の96条の6第1項を適用している。現行の96条の6第1項は、法定刑を「三年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金」とし、構成要件として「公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為」と定めている(e-Gov法令検索、2026年10月18日取得)。

資料

事件の経過は、第1審判決・原判決・本判決の記載による。

本記事は公開された裁判例の紹介で、個別の事件についての法的助言ではありません。当事者名・会社名・裁判官名は記載していません。