著作権の権利ガイド テーマ別:著作者人格権
著作者人格権の規範の整理(専門家)
同一性保持権の侵害と、侵害を引き起こした者の責任、氏名表示権の「公衆への提供若しくは提示」について、最高裁の判断を整理します。
このページの判決文の引用は、裁判所ウェブサイトの PDF をもとにしていますが、原本との文言の照合がまだ済んでいません。照合前の引用には「原文照合前」と表示しています。正確な文言は、各判決の全文で確認してください。
1. このページの範囲
このページは、同一性保持権・氏名表示権についての最高裁の判断を整理するものです。評価や実務への示唆は書いていません。契約の不行使特約の有効性や範囲については、ここでは扱いません。
2. 条文の構造
- 第18条
- 公表権
- まだ公表されていない著作物を、公衆に提供・提示する権利。
- 第19条第1項
- 氏名表示権
- 著作物の原作品に、または著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するか、どの名前を表示するかを決める権利。
- 第20条第1項
- 同一性保持権
- 著作物と題名の同一性を保持し、意に反する変更・切除その他の改変を受けない権利。
- 第20条第2項
- 適用除外
- 学校教育での用字の変更、建築物の増改築、プログラムの修正、その他やむを得ないと認められる改変。
- 第59条
- 一身専属性
- 著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できない。
表は条文の要点をまとめたもので、条文の文言そのものではありません。
3. 判決ごとの整理
最高裁判決は通称を1回だけ併記し、下級審は裁判所・日付・事件番号で示します。当事者は役割で書いています。金額の数字は載せていません。
最高裁判所第三小法廷 平成13年2月13日判決(平成11年(受)第955号)
いわゆるときめきメモリアル事件
事案
[ゲーム会社]は、プレイヤーが主人公の能力の数値(パラメータ)を高めていくことで、ストーリーが展開していくゲームソフトをつくり、販売していました。
[販売業者]は、このゲームのパラメータを、本来ならあり得ない高い数値に置き換えるデータを記録したメモリーカードを輸入し、販売しました。[ゲーム会社]が、同一性保持権の侵害などを理由に、損害賠償を求めました。
裁判所の判断
メモリーカードの使用により、主人公の人物像が改変され、ストーリーが本来予定された範囲を超えて展開されるなどの事実関係のもとでは、その使用はゲームソフトを改変し、同一性保持権を侵害するとしました。
専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入・販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者は、他人の使用による同一性保持権の侵害を引き起こしたものとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負うとしました。
判決文・裁判要旨から
裁判要旨「専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用により,ゲームソフトの同一性保持権の侵害をじゃっ起したものとして,ゲームソフトの著作者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。」原文照合前
最高裁判所第三小法廷 令和2年7月21日判決(平成30年(受)第1412号)
いわゆるリツイート事件
事案
[写真家]が撮影し、隅に自分の名前を表示した写真が、無断で SNS に投稿されました。さらに、その投稿を自分のアカウントで再投稿(リツイート)した人たちがいました。
再投稿の表示では、画像の上下が切れて表示され、写真家の名前の部分が見えない状態になっていました。[写真家]が、氏名表示権の侵害などを理由に、SNS の運営会社に、再投稿した人の発信者情報の開示を求めました。
裁判所の判断
第19条第1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は、第21条から第27条までの権利に係る著作物の利用によることを要しないとしました。
名前の部分が切れた画像が表示されている場合、閲覧者が画像をクリックすれば名前の入った元の画像を見られるとしても、それは別のページでしか見られず、通常クリックされるともいえないなどとして、再投稿した人が著作者名を表示したことにはならないとしました。
そのうえで、開示の請求を認めた原審の判断を維持し、上告を棄却しました。
判決文・裁判要旨から
裁判要旨「著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要しない。」原文照合前
最高裁判所第三小法廷 昭和55年3月28日判決(昭和51年(オ)第923号)
いわゆるパロディ事件
事案
[写真家]が撮った雪山の斜面をスキーヤーが滑る写真を、[デザイナー]が一部を切り取って白黒にし、大きなタイヤの写真と組み合わせた作品(モンタージュ写真)をつくって発表しました。
[写真家]が、著作者人格権の侵害などを理由に、損害賠償などを求めました。昔の著作権法(旧法)のもとでの事件です。
裁判所の判断
引用とは、紹介、参照、論評などの目的で、自分の作品の中に他人の作品を原則として一部採録することをいう、としました。
そのうえで、引用といえるには、引用を含む作品の表現の形式上、引用する側の作品と引用される側の作品をはっきり区別して認識でき、かつ、引用する側が主、引用される側が従の関係にあることが必要だ、としました。
モンタージュ写真は、もとの写真の本質的な特徴を感じ取れる形で取り込んでおり、許される引用に当たらないとして、同一性保持権の侵害を否定した原判決を破棄し、差し戻しました。
旧法(明治32年の著作権法)の第30条第1項第2号についての判決です。全文 PDF の所在を確認できなかったため、引用文は載せていません。
4. 並べて見えること
- ・最高裁平成13年2月13日判決は、パラメータを本来あり得ない数値に置き換えて主人公の人物像とストーリーの展開を変えることを、ゲームソフトの改変に当たるとし、さらに、専ら改変のみを目的とする道具を流通に置いた者に、侵害を「じゃっ起した」ものとして不法行為責任を認めました。
- ・最高裁令和2年7月21日判決は、第19条第1項の「公衆への提供若しくは提示」が第21条から第27条までの権利に係る利用によることを要しないとし、画像を表示させる再投稿も氏名表示権の対象となるとしました。
- ・同判決は、著作者名を表示したといえるかを、閲覧者の通常の閲覧の仕方(クリックしなければ見られないか、別のページでしか見られないか)に即して判断しています。
- ・最高裁昭和55年3月28日判決は、旧法のもとで、引用の要件(明瞭区別性・主従関係)を示し、これに当たらない改変について同一性保持権の侵害を否定した原判決を破棄しました。
5. 残る問い
- ・第20条第2項第4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるのは、どのような場合か。
- ・著作者人格権の不行使特約は、どの範囲の改変まで及ぶと解されるか。
- ・侵害を引き起こした者の責任は、改変を目的とする道具以外(たとえば改変を前提とするサービス)にどう及ぶか。
6. 資料
- 最高裁判所第三小法廷 平成13年2月13日判決(平成11年(受)第955号)
- 最高裁判所第三小法廷 令和2年7月21日判決(平成30年(受)第1412号)
- 最高裁判所第三小法廷 昭和55年3月28日判決(昭和51年(オ)第923号)
- e-Gov 法令検索「著作権法」
- 文化庁「令和8年度 著作権テキスト」
判決の整理は、判決文に書かれていることをまとめたもので、評価や、個別の事案への当てはめを示すものではありません。法律相談・法的助言ではありません。
【試作】このページの条文は、e-Gov 法令検索の原文との確認がまだ済んでいません。順に取得し直します。その後の改正は反映されていないことがあります。引用や判断の根拠にする前に、e-Gov 法令検索で最新の条文を確認してください。行政資料の記載は、各資料の原文で確認してください。このページは著作権制度の一般的な説明で、法律相談や個別の事案についての法的助言ではありません。