黙示の許諾があったのに、取引先や記者会見で著作権侵害だと告げたら:キャラクターをめぐる知財高裁令和8年10月7日判決を読む
(知的財産高等裁判所第2部 令和8年10月7日判決、令和7年(ネ)第10027号・同第10054号、損害賠償本訴請求、使用差止め等反訴請求控訴、同附帯控訴事件。原審は東京地方裁判所 令和3年(ワ)第18479号・令和5年(ワ)第70136号)
法律相談・法的助言ではありません。判決の全文は裁判所ウェブサイトにあります。本稿は、判決文から言えることと、原判決などの資料を並べて読んだ整理とを、分けて書いています。
結論を先に
知財高裁は、地方公共団体が、事業者に対し、事業者のキャラクターを使って独自に商業活動をすることを、遅くとも平成29年12月初めまでに黙示的に許諾していたと認めた。そのうえで、地方公共団体が、事業者の取引先であるテレビ局への書面や、代表者の定例記者会見などで、事業者の行為は著作権侵害・不正競争に当たると告げたことは、不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たり、正当な権利行使として違法性が阻却されることもない、とした。
地方公共団体の控訴は棄却された。事業者の附帯控訴は一部認められ、賠償額は、原判決の786万2347円から1887万7802円(と遅延損害金)に変更された。地方公共団体の反訴(差止め、廃棄、損害賠償等)は、原判決と同じく、すべて棄却された。
控訴審で新たに加わった主張は、許諾を撤回・解約・解除できるか、事業者の再許諾が著作権法63条3項に反するか、などである。判決は、許諾を期間の定めのない継続的契約と解するとしても、解約できるのは「当事者間の信頼関係が破壊されるなど、将来にわたる契約の存続を困難にするような事由が生じた場合に限られる」とし、そうした事由は認められないとした。賠償額が増えたのは、原判決が認めなかった取引先との企画4件の逸失利益などを認め、弁護士費用も増やしたためである。
何が起きたか(事案の経過)
判決が認定した事実(控訴審判決と、控訴審判決が引用する原判決による)
- 地方公共団体は、マスコットキャラクターを地域振興や広報に使っている。そのデザインの原画は公募で選ばれ、著作権は応募者から地方公共団体に譲渡されていた。キャラクターに関する商標権も、地方公共団体が持っていた。
- 事業者は、飼育する動物をテレビ番組に司会者として出演させるなどの活動をしていた。平成29年秋、この動物を地方公共団体の観光大使とする話が進み、あわせて事業者は、動物をモデルにした着ぐるみのキャラクターを作ることにした。地方公共団体側の窓口を務めていた者は、地方公共団体のキャラクターの原画の制作者を、デザイナーとして事業者に紹介し、デザイン案を受け取ってコメントしていた。原判決は、地方公共団体の担当課の内部で、地方公共団体のキャラクターと似すぎているとの意見が出たが、特段の要請はせず、静観することになった、と認定している。
- 平成29年11月8日、事業者側から、着ぐるみの製作について許可を得ているかを照会されたのに対し、地方公共団体の担当課が管理するメールアドレスから、特に許可は必要ないという趣旨のメールが送られた。
- 着ぐるみは平成29年11月29日に完成し、事業者は同年12月15日にキャラクターの活動を始めた。平成30年1月18日、動物は観光大使に委嘱され、委嘱式には着ぐるみも出席した。その後、両者のキャラクターが共演する動画などが作られ、配信された。
- 着ぐるみを使った動画の中には、視聴者に危険な行為と感じさせるものがあり、地方公共団体にも抗議が寄せられた。控訴審は、地方公共団体側の窓口を務めていた者が、平成30年2月、事業者側に対し、動画中の行為を基本的に容認し、事業者の独自の商業活動を支持するメッセージを送っていたことを、認定に加えた。
- 地方公共団体は、平成31年1月17日に観光大使を解嘱し、同月19日に到達した書面で、事業者に、著作権侵害・不正競争に当たるとして、行為の中止とデザインの変更を求めた。続けて、同月31日付けでテレビ局2社に番組出演等の中止を求める書面を送り、2月6日の定例記者会見で資料とスライドを配って代表者が発言し、2月8日に報道機関あての書面を送り、2月15日にコメントを出した。判決は、テレビ局あての書面以降の行為をまとめて「本件被告行為」と呼んでいる。
- 地方公共団体は、平成31年2月16日、着ぐるみ等の使用差止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。東京地裁は令和元年9月20日に申立てを却下し、知財高裁は同年12月25日に抗告を棄却した(確定)。
- 事業者は令和3年7月15日に本訴を、地方公共団体は令和5年3月23日に反訴を、それぞれ提起した。原判決は、本訴を786万2347円等の限度で認め、反訴を棄却した。地方公共団体が控訴し、事業者が附帯控訴した。
判決に書かれていない経過(裁判所ウェブサイトの掲載情報と報道による)
- 原判決(東京地裁)の言渡日は、令和7年2月7日である。控訴審判決には原審の事件番号だけが書かれており、日付は裁判所ウェブサイトの原判決の掲載情報による。
- 控訴審判決は、言渡しの当日、報道された。
- 上告・上告受理申立ての有無は、本稿の作成時点(2026年10月18日)では確認できていない。
争点:何が争われたか
- 本訴:地方公共団体の書面の送付や記者会見での発言等は、不正競争防止法2条1項21号の「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に当たるか。著作権侵害に当たるという法的な見解の表明も、同号の「事実」に含まれるか。正当な権利行使として違法性が阻却されるか。損害額はいくらか。
- 反訴:事業者のキャラクターの利用は、地方公共団体の著作権(翻案権など)や商標権の侵害、不正競争防止法2条1項1号・2号の不正競争に当たるか。その前提として、地方公共団体の黙示の許諾があったか。
- 控訴審で加わった地方公共団体の主張:許諾は単独行為であり撤回できる。改正前民法の使用貸借・贈与の規定(594条、597条、550条)を類推して解約・解除できる。期間の定めのない継続的契約として解約できる。事業者による第三者への再許諾は著作権法63条3項に反する。許諾は地方自治法96条1項10号の「権利を放棄すること」に当たり、議会の議決がないので効力を生じない。
裁判所の判断
1 黙示の許諾はあったか
判決は、原判決の判断を補正して引用し、地方公共団体は、遅くとも平成29年12月初めまでには、事業者に対し、キャラクターの利用を黙示的に許諾したと認めた(判決は「本件許諾」と呼ぶ)。根拠は、デザインの確定と着ぐるみの製作の経緯、そして、それについての地方公共団体側の認識と対応である。
地方公共団体は、稟議や決裁を経ずに、公有財産の利用を無償・無条件・無制限で許すことはありえない、包括的な許諾には明示の意思表示が強く求められる、と主張した。判決は、「明示の意思表示がないことや、控訴人における稟議や決裁を経ていないことによって、上記判断は左右されない」とした。地方自治法96条1項10号の「権利を放棄すること」に当たらないことは「明らかである」とした。
2 許諾を終わらせることができるか(控訴審で加わった主張)
- 撤回:地方公共団体は、観光のPRや両キャラクターのタイアップ活動などについて合意したうえで許諾したと見るのが相当であり、許諾を地方公共団体の「単独行為によるものということはできない」とした。
- 民法の類推適用:使用貸借の規定は、当事者間の特別な人的関係を背景とするものであり、書面によらない贈与の規定は、無償・片務の契約であることを考慮したものである。そのため、著作権法63条1項に基づく利用の許諾について「これらの規定を類推適用する法的根拠を欠く」とした。
- 継続的契約としての解約:許諾の期間について、明示・黙示の合意は認められない。継続的契約と解するとしても、一方的な解約で許諾が終了すると、制作費や広告宣伝等に多額の費用を支出した事業者に多大な不利益が及ぶ。だから、解約できるのは「当事者間の信頼関係が破壊されるなど、将来にわたる契約の存続を困難にするような事由が生じた場合に限られる」とし、本件ではそうした事由は認められないとした。
- 信頼関係の破壊:危険と受け取られる動画の投稿が続いている点について、事業者は観光大使の解嘱後、地方公共団体とは別個に商業活動をしていること、地方公共団体のキャラクターと誤認混同されて信用が毀損されたことを認める的確な証拠がないこと、当初は地方公共団体側の窓口を務めていた者が基本的に容認する姿勢を示していたことから、直ちに信頼関係を破壊する事情には当たらないとした。
- 許諾の期間:著作権法83条2項(出版権の存続期間)を踏まえて、許諾の期間は最初の利用から3年で満了したとの主張に対し、本件許諾は「債権的な利用権を付与するにとどまり」、出版権のような物権的な利用権を付与するものではないとして、退けた。
- 再許諾(著作権法63条3項):本件許諾は、事業者から再許諾を得た者がキャラクターを使って商品を製造・販売することを含むと解した。ただし、再許諾を得た者が自由に製造・販売することや、包括的な再々許諾の権限を与えることまで含むとは解しがたい、とした。そのうえで、事業者が、事前の協議や監修・承認を定める商品化権許諾契約を結び、再々許諾をしている会社とも、事前の報告と承認を定める代理店契約を結んでいることから、事業者の行為が「著作権法63条3項に違反するとまでいうことはできない」とした。
3 書面の送付や記者会見は、不正競争に当たるか
この部分の枠組みは、原判決の判断を引用している。原判決は、次のように判断していた。
- 地方公共団体の行為は、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に当たる。不正競争防止法2条1項は、国家賠償法4条の「民法」に当たる。だから、地方公共団体は、国家賠償法1条1項に基づいて賠償責任を負う。
- 両者は、キャラクターの着ぐるみをイベントや番組・CMに出し、イラスト等を付した商品の販売を許諾するという点で同じ事業をしており、需要者・取引者を共通にする可能性があるから、「競争関係」にある。
- 権利を侵害する、不正競争に当たるという法的な見解の表明も、同号の「事実」に含まれ、指摘された権利侵害等が成立しないときは「虚偽の事実」に当たる。
- 黙示の許諾がある以上、事業者が無断でキャラクターを制作・使用しているという事実も、権利侵害に当たるという見解も、虚偽である。
- 地方公共団体の代表者と職員には、事実関係を調査したうえで適切な表現を用いるべき注意義務を怠った過失がある。
控訴審は、これに、正当な権利行使として違法性が阻却されるかの判断を加えた。地方公共団体は、テレビ局は事業者と共に権利を侵害した者であり、書面の送付は知的財産権の権利行使の一環である、記者会見等は地方公共団体としての説明義務に基づく正当な行為である、と主張した。判決は、地方公共団体が、これらの行為に先立って、何らかの許諾があったことをうかがわせる、地方公共団体側の窓口を務めていた者と事業者側とのやり取りの記録を確認せず、事業者との協議もしていないことを挙げ、「知的財産権の正当な権利行使に該当するとはいえない」し、「地方公共団体としての説明義務を果たすための必要な行為ともいえない」とした。
4 損害額
控訴審が認めた営業に係る損害は、次のとおりである。
- テレビ局のスポーツニュース番組内のCM(5回の放送予定で、1回目の放送後に中止):70万円。テレビ局が書面を受けて放送を中止したのは「当然の判断」で、出演料の支払を受けることは社会通念上不可能になったとした。CMは完成していたので、経費は控除しない。
- 他社のキャラクターと共演するCMの企画:415万2347円(原判決と同じ)。
- 量販店向けTシャツの商品化:64万4400円(1790円×6000枚×6%)。取引先が企画の再開に消極的な意向を示していること、地方公共団体との協議が進展していないこと、企画の中止から相当期間がたったことから、実現は社会通念上不可能とした。
- 衣料品店向け商品の商品化:673万1055円。取次ぎをした会社のメールの内容から、遅くとも平成31年2月初めには商品化許諾契約が成立していたと認めた。
- ゲームとのコラボ企画:115万円(知的財産使用料100万円と2次使用料15万円)。
- 出版社のムック本:180万円(1600円×7.5%×1万5000部)。契約書は作られていなかったが、使用料率の確認、付録の輸入申請と納品などから、少なくとも初版分の著作権使用料が支払われる「蓋然性は高かった」とした。
この小計は1517万7802円で、弁護士費用は170万円(原判決は71万円)とされた。営業上の信用が毀損されたことによる無形損害については、控訴審判決に改める記載がなく、総額との差から、原判決と同じ200万円と読める。テレビ局で放送予定だったショートアニメの制作費は、原判決と同じく、損害に含まれていない。
原判決と比べると
以下は、控訴審判決と原判決の文章を並べて読んだ整理である。判断の当否ではなく、どこが変わり、どこが変わっていないかを書いている。
変更された点
- 損害額:786万2347円から1887万7802円に変わった。原判決は、CM出演料、Tシャツ、衣料品、ムック本の4件について、支払条件の主張・立証がない、訴訟の帰趨によっては実現の可能性がある、契約締結の客観的な証拠がない、使用料算定の基礎となる部数が確定していない、などとして逸失利益を認めなかった(CM出演料については「社会通念上不可能になっているとまでは認めることはできない」とした)。控訴審は、取引先の意向を示すメール、判決時点までの時間の経過、契約の成立時期をうかがわせるメールなどを挙げて、4件とも逸失利益を認めた。ゲーム企画の2次使用料15万円と、弁護士費用も増えた。
- テレビ局あての書面:原判決は、これに係る損害が認められないとして、違法性が阻却されるかを判断せずに、この部分の請求を退けていた。控訴審は、違法性の阻却を否定する理由を示し、CM出演料70万円を損害と認めた。
- 黙示の許諾の時期:原判決は、時期を特定せずに「黙示に許諾していた」とした。控訴審は「遅くとも平成29年12月初めまでには」と時期を示した。
- 事実認定の書き方:本件被告通知まで、地方公共団体から中止を求めるなどの対応について、原判決は「対応がされたと認めるに足りる証拠はない」としていた。控訴審は、これを「対応はされていない」と改めた。
- 控訴審で加わった主張(撤回、民法の類推適用、継続的契約としての解約、著作権法63条3項、地方自治法96条1項10号、著作権法83条2項)について、判断が加わった。
是認された点(原判決の判断を、補正しつつ引用したもの)
- 黙示の許諾があったこと。許諾の範囲や条件を、地方公共団体が主張するように限定する合意は認められないこと。
- 錯誤・詐欺の主張を退けたこと。控訴審は、地方公共団体側が出した調査報告書について、作成した会社の代表者が地方公共団体側の窓口を務めていた者で、現在、地方公共団体のキャラクターの運営業務を受託していることから、直ちに採用できない、という説示を加えた。
- 国家賠償法1条1項を通じて不正競争防止法2条1項21号を適用する枠組み、「競争関係」と「事実」の解釈。控訴審は、これらの部分を改めていない。
- 他社のキャラクターと共演するCM企画の損害額と、無形損害の額。アニメの制作費を損害と認めないこと。
- 反訴をすべて棄却したこと。
残された問い
- 判決は、許諾の期間について合意は認められないとし、解約を信頼関係の破壊等の事由がある場合に限った。どのような事情があればその事由に当たるのかは、本件の事情に即して否定しただけで、一般的には示していない。
- 判決は、再許諾を得た者が自由に製造・販売することや、包括的な再々許諾の権限までは、許諾に含まれないとした。そのうえで、監修・承認を定める契約があることから、著作権法63条3項に違反するとまではいえないとした。どの程度の管理があれば足りるかは、示していない。
- 違法性の阻却について、判決は、やり取りの記録の確認や協議をしていないことを挙げた。どこまでの確認や協議をしていれば結論が変わり得たのかは、判決文からは分からない。
- 法的な見解の表明も不正競争防止法2条1項21号の「事実」に含まれるという解釈は、原判決が示し、控訴審はこの部分を改めずに引用している。原判決は、最高裁平成16年7月15日判決(民集58巻5号1615頁)を参照として掲げているが、控訴審判決は、これに触れていない。
- 地方自治法96条1項10号の点について、判決は「明らかである」とし、それ以上の理由は書いていない。
- 上告・上告受理申立てがされたかは、本稿の作成時点では確認できていない。
資料
- 要旨(判例ウォッチ)
- 判決文:裁判所ウェブサイトの掲載ページ(知財高裁 令和8年10月7日、令和7(ネ)10027等)
- 判決文:全文(PDF)
- 原判決:裁判所ウェブサイトの掲載ページ(東京地裁 令和7年2月7日、令和3(ワ)18479等)
- 原判決:全文(PDF)
- 不正競争防止法(2条1項21号):e-Gov法令検索(2026年10月18日取得)
- 著作権法(63条、83条):e-Gov法令検索(2026年10月18日取得)
- 地方自治法(96条1項10号):e-Gov法令検索(2026年10月18日取得)
- 国家賠償法(1条、4条):e-Gov法令検索(2026年10月18日取得)
判決言渡し後の経過は、地方紙や通信社配信の記事などの報道による。改正前民法の条文は、現行の文言と異なるため、本稿では引用していない。
本稿は、公開された裁判例の紹介です。個別の事件についての法的助言ではありません。