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公訴提起のない事実を訴因変更で追加して審判できるか:最高裁令和8年10月5日判決(令和7(あ)868)と補足意見

法律相談・法的助言ではありません。原文は次のリンクから確認できます。

最高裁判所第二小法廷は、令和8年10月5日、公訴提起がされないまま訴因変更の手続で追加された、併合罪の関係にある窃盗の事実について審理判決をした原判決及び第1審判決を、いずれも破棄し、第1審裁判所に差し戻した(令和7年(あ)第868号)。裁判官全員一致の意見で、1名の補足意見が付いている。

何が争われたか

判決が摘示する訴訟経過は次のとおりである。検察官は、被告人が氏名不詳者らと共謀して現金自動預払機から現金を窃取したとする2件の事実(当初訴因)を起訴した。その後、第1審裁判所に、別の日時・場所の窃盗4件の事実(追加訴因)を当初訴因に追加する訴因変更を請求し、第1審裁判所はこれを許可した。

第1審は、当初訴因と追加訴因を併合罪として処断し、懲役3年及び罰金50万円(懲役刑は5年間執行猶予)に処した。検察官の控訴に対し、原審は量刑不当を理由に第1審判決を破棄し、懲役2年10月及び罰金100万円に処した。弁護人の上告趣意は量刑不当の主張で、上告理由に当たらないが、最高裁は職権で調査した。

最高裁はどう判断したか

当初訴因と追加訴因を併合罪の関係にあるものとした原判決の判断は相当であるとした。

そのうえで、追加訴因は、当初訴因と「公訴事実の同一性」(刑訴法312条1項)がなく、本来別罪として公訴提起がされるべきものであるから、訴因変更により審判の対象とすることはできないとした。訴因変更がされていることをもって、追加訴因につき公訴提起がされたのと同様にみることを許容すべき事情も、記録上見当たらないとした。

したがって、追加訴因につき審理判決をした原判決には、同項の解釈適用を誤り、刑訴法378条3号後段にいう「審判の請求を受けない事件」について判決をした違法があるとした。第1審判決にも同じ違法があるとして、いずれも破棄し、追加訴因に係る公訴提起の有無も踏まえて更に審理を尽くさせるため、第1審裁判所に差し戻した。

補足意見は何を述べたか

  • 訴因変更請求と許可決定:当初訴因と追加訴因は包括一罪とみる余地がなく、公訴事実の同一性を欠くことが明らかであるから、訴因変更請求も、これを許可した決定も、明らかに刑訴法312条1項に違反するとする。
  • 追起訴との違い:追起訴は新たな審判手続を開始する訴訟行為、訴因の追加は既に開始された審判手続内の訴訟行為であるという本質的な違いがあるとする。
  • 被告人の不利益:訴因変更請求が書面で行われ、被告人に送達され、弁護人の異議もなく許可されたなどの事情があっても、審判請求の存否に係る違法は、被告人の不利益の程度やその同意によって左右されないとする。
  • 規律の意義:本件の訴因変更を公訴提起と同様に扱うと、公訴事実の同一性を害しない限度で訴因変更が許されるという規律自体の意義が失われるとする。
  • 今後:このような事態は迅速な裁判の要請や訴訟経済の点でも望ましくなく、全ての関係者が十分に注意を尽くす必要があるとする。

読みどころ

以下は、判決文(決定文)から読み取れる点の整理である。

  • 法廷意見は、追加訴因が併合罪の関係にあることと、公訴事実の同一性がないことを結び付けて、訴因変更の許容範囲の問題として整理している。
  • 差戻しは、追加訴因につき公訴提起がされたものと扱えるかを含めて審理を尽くさせるためとされており、公訴提起の有無そのものは、最高裁では判断されていない。
  • 補足意見は、被告人に手続上の不利益が生じていないとみる余地を検討したうえで、それが違法の判断を左右しないとしている。

本記事は公開された裁判例の紹介で、個別の事件についての法的助言ではありません。当事者名・地名・裁判官名は記載していません。