訴え取下げ後の手数料の還付請求権を差し押さえた債権者による還付の申立て:最高裁令和8年9月30日決定(令和7(許)23)と補足意見
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最高裁判所第二小法廷は、令和8年9月30日、民事訴訟費用等に関する法律(令和4年法律第48号による改正前のもの)9条3項に基づく手数料の還付請求権を差し押さえた債権者は、取立権の行使として、同項に基づく還付の申立てをすることができるとして、申立てを却下すべきものとした原決定を破棄し、1万8000円の還付を命じた(令和7年(許)第23号)。裁判官全員一致の意見で、1名の補足意見が付いている。
何が争われたか
決定が摘示する経緯は次のとおりである。本案訴訟の原告は、訴え提起の手数料として3万6000円を納めたが、第1回口頭弁論期日の前に訴えを取り下げた。抗告人は、この原告を債務者、国を第三債務者として、同項に基づく還付請求権を差押債権とする差押命令を得て、民事執行法155条1項の取立権の行使として、1万8000円の還付を申し立てた。
原審は、この還付請求権は行使上の一身専属性を有し、手数料を納めた者のみが行使できるから、抗告人は申立てをすることができないとして、申立てを却下すべきものとした。
最高裁はどう判断したか
同項は、同項各号に掲げる申立てについて、手続の初期の段階で却下の裁判が確定し、又は取下げがされた場合に、納められた手数料の一部の還付を受けられるようにして、負担の公平を図る趣旨であるとした。
そのうえで、還付の申立ては、納めた手数料の一部の還付を受けるという専ら経済的利益を得ることを目的とする行為であり、還付を受けても納付者に不利益は生じないこと、申立てさえされれば、各号の事由の有無や還付の額は事件記録により認められる事実等から形式的に判断されることが予定されていることから、申立てをするか否かを納付者のみの意思に委ねるべき理由はないとした。納付者の債権者が、還付の決定がされる前の還付請求権を責任財産として期待することが不合理であるともいえないとした。
したがって、還付請求権は行使上の一身専属性を有せず、還付の申立ては、差し押さえた還付請求権の取立てのために必要不可欠な行為であって取立ての範囲を超えないから、差押債権者は、取立権の行使として申立てをすることができるとした。原決定を破棄し、申立てを却下した原々決定を取り消して、抗告人に1万8000円を還付するものとした。
補足意見は何を述べたか
補足意見は、結論に賛成したうえで、次の点を述べる。民事執行法155条1項の取立権は、取立てに必要な行為にも及ぶが、取立ての目的の範囲を超えないものに限られる(最高裁平成11年9月9日第一小法廷判決を引用)。その範囲の判断は、債権者の債権回収の必要性のみでなく、債務者の被る不利益の程度や、債務者が権利を行使しないことを正当視し得る事情の有無なども考慮して決すべきであり、債権者の債権回収の必要を殊更に強調することは適切ではないとする。
そのうえで、本件では、訴えの取下げは債務者自身の判断によるもので、還付の申立てに債権者の権利行使を認めても債務者に格別の不利益は想定されず、債務者が還付をあえて行わないという意思を有していたとしても、債権者の債権回収の要請との関係で正当視されるとは思われないから、申立ては取立ての目的の範囲を超えないとする。本件の判断は、一身専属性の検討と、取立ての目的の範囲の評価の両方を踏まえたものである点に留意すべきであるとする。
読みどころ
以下は、判決文(決定文)から読み取れる点の整理である。
- 法廷意見は、行使上の一身専属性の有無と、取立ての範囲を超えないかの二点を、続けて検討している。
- 一身専属性を否定する理由として、法廷意見は、申立ての目的が経済的利益に限られること、納付者に不利益が生じないこと、判断が形式的であることを挙げている。
- 補足意見は、取立ての目的の範囲の判断が事案ごとの事情によることを述べており、他の債権・他の申立てに直ちに及ぶかは、法廷意見の文面からは述べられていない。
本記事は公開された裁判例の紹介で、個別の事件についての法的助言ではありません。当事者名・地名・裁判官名は記載していません。