応急仮設住宅の供与期間が終わった後の占有と損害金:最高裁令和8年9月14日判決(令和7(受)1337)と反対意見
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最高裁判所第二小法廷は、令和8年9月14日、東日本大震災の被災者が応急仮設住宅として供与された区民住宅を供与期間の終了後も占有した事件で、区の使用料等相当損害金の請求を認めた原審の判断を正当として是認し、上告を棄却した(令和7年(受)第1337号)。裁判官1名の反対意見が付いている。
何が争われたか
判決が摘示する事実関係は次のとおりである。震災で住宅が全壊した上告人とその夫は、平成23年に区から、使用料等を免除した一時使用許可を受けて区内の借上型区民住宅に入居した。この住宅の提供は、平成25年4月以降、災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与として取り扱われている。二人は平成27年に同じ区の別の区民住宅(本件建物)へ転居した。
被災地の県知事は平成29年8月、供与を平成30年3月31日で終了する旨を通知し、区も同日までの退去を通知した。上告人は、同居者の病状の悪化などを説明して退去は困難だと相談したが、公営住宅への入居や生活保護の利用などの方策はいずれも実現しなかった。区は日額6410円の弁償金が発生する旨も通知した。上告人は令和3年10月19日に建物を明け渡した。区は、平成30年4月1日から明渡しまでの占有は権原のないものだとして、使用料等相当損害金の支払を求めた。
上告受理申立ての理由のうち、判決が判断したのは、区が退去を求めることが権利の濫用または信義則違反に当たるから、反射的に占有権原が認められ、損害金の請求は認められないという主張である。
最高裁(多数意見)はどう判断したか
多数意見は、仮に区が退去を求めることが権利の濫用または信義則違反に当たるとしても、これにより、上告人が建物を占有することによる使用料等相当損害金が発生しないことになるものではないから、所論は前提を欠くとした。そのうえで、前記の事実関係の下で請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認できるとした。その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定で排除されている。
反対意見は何を述べたか
反対意見は、災害救助法等の法令の解釈を誤った結果、必要な審理を尽くさなかった違法があるとして、原判決を破棄し、原裁判所に差し戻すのが相当だとした。要点は次のとおりである。
- 解釈の枠組み:被災者の保護に関する関係法令は、社会権規約11条1項と国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえて解釈適用するのが相当であるとする。
- 供与期間の判断:特定非常災害における応急仮設住宅の供与期間は、使用する必要性について、被災地域等を超えた広域の住宅の供給状況等を踏まえ、被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないとする。
- 他の自治体との関係:他の都道府県の知事や市町村長(特別区長を含む)が応援として応急仮設住宅を供与する場合、救助を行う知事との間で、供与期間の判断について必要な協議を行うなど相互に協力しなければならないとする。
- 当てはめ:反対意見は、当事者の事情(同居者の病状の悪化により被災地に戻れなくなったこと、区営住宅・都営住宅の募集に応募したが抽選に漏れたことなど)を挙げ、平成30年3月31日の時点で住宅を使用する高度の必要性があったとする。また、生活保護は制度の趣旨・目的が異なり、応急仮設住宅の供与に代わる措置ではないとする。そのうえで、区長は、県知事に事情を伝えて協議するなどの協力を怠り、同日をもって供与を終了させたと述べる。
- 結論:この終了は、災害救助法等の趣旨に反し、居住の安定に係る利益を著しく害し、社会通念上著しく妥当性を欠くとする。平成30年4月1日以降の占有を単なる不法占拠とみることはできず、具体的な事情を総合して、明渡しと損害金の請求が、正義・公平の理念に照らし容認できないときは権利の濫用として許されないとする。原審は、供与終了の瑕疵を前提とせず、権利の濫用に当たるかの検討をしていないとする。
読みどころ
以下は、判決文から読み取れる点の整理である。
- 多数意見は、権利の濫用または信義則違反の成否そのものを判断していない。仮にそれが成り立つとしても損害金は発生しなくならない、という点で、所論が前提を欠くとしている。
- 反対意見は、同じ主張を、供与の終了そのものの妥当性(災害救助法等の趣旨に反するか)と、損害金の請求が権利の濫用に当たるかという二段で整理している。
- 反対意見は、令和8年1月9日の別の最高裁判決(令和6年(受)第1046号)に付した自らの反対意見を参照している。
本記事は公開された裁判例の紹介で、個別の事件についての法的助言ではありません。当事者名・地名・裁判官名は記載していません。