在留外国人の生活保護、最高裁は憲法判断をしなかった:最高裁令和8年9月9日決定(令和6(行ツ)372)と反対意見
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最高裁判所第二小法廷は、令和8年9月9日、在留外国人が生活保護申請の却下決定の取消しと保護開始決定の義務付けを求めた事件で、上告の理由は明らかに民訴法312条1項・2項の事由に当たらないとして、上告を棄却した(令和6年(行ツ)第372号)。多数意見は、生活保護法が外国人を対象としないことの憲法適合性について判断していない。補足意見1つと反対意見1つが付いている。
どんな事件か
反対意見が摘示する事実によれば、上告人は外国籍で、重い疾病のため継続的に治療を受けている。法務大臣から在留特別許可を受け、医療を受ける必要がある者の療養のための活動を指定した「特定活動」の在留資格で在留している。
令和3年11月18日に市長に生活保護を申請したが、同年12月1日、生活保護法による保護は「国民」に当たらないことを理由に、通知に基づく行政措置としての保護はこの在留資格では要件に当たらないことを理由に、いずれも却下された。原審は、同法が外国人を対象としないことは憲法25条1項等に違反しないなどとして、取消請求を棄却し、義務付けの請求を却下するなどした。
最高裁(多数意見)はどう判断したか
多数意見の理由は、民事事件で最高裁に上告できるのは民訴法312条1項・2項の場合に限られ、本件の上告理由は明らかにこれに当たらない、というものだけである。反対意見は、多数意見が生活保護法の憲法適合性について判断しておらず、合憲と判断するものでもないことを指摘している。
補足意見は何を述べたか
補足意見は、昭和29年の厚生省社会局長通知に基づき、地方公共団体が一定の外国人に日本国民と同様の基準で保護を行っていること、昭和56年の難民条約加入に伴う法整備で国民年金法などの国籍要件が撤廃された際、生活保護法はこの通知による支給が行われていることを考慮して改正されなかった経緯があることを挙げ、議論ではこれらを踏まえる必要があるとする。
反対意見は何を述べたか
- 枠組み:憲法25条の最低限度の生活を営む権利は、人間の生存と尊厳を基礎とし、権利の性質上日本国民のみを対象とするものではない。生活保護法の保護を国民に限ることは、立法裁量による権利の具体化の問題ではなく、既に具体化された権利の主体を国籍で区別することの合理性の問題である。25条と14条1項の判断は密接に関連し、外国人の除外には、在留資格その他の事情を踏まえた合理的な根拠が必要である。
- 条約:社会権規約2条2項の差別禁止の義務は即時に効力を持ち、難民条約も公的扶助の内国民待遇を定める。外国人を国民と同等に扱う平等原則は規範として確立している。
- 過去の判例との関係:平成元年3月2日第一小法廷判決(障害福祉年金の国籍要件)と、平成26年7月18日第二小法廷判決(生活保護法の「国民」に外国人は含まれない)は、生活保護法の規定の憲法適合性の判断に及ぶものではない。
- 当てはめ:難民・補完的保護対象者の認定を受けた外国人と、療養のための特定活動の在留資格の外国人は、国籍国に帰ってその保護を受けることが困難な特別の事情があり、日本国民と異なる扱いをする合理的な根拠はない。療養のための在留資格の外国人は、通知による行政措置の保護の対象にもならない。
- 結論:生活保護法1条・2条の「国民」の規定のうち、少なくともこれらの外国人を除外する部分は、憲法25条と14条1項に違反し無効であり、これらの外国人は同法による保護を受ける権利を有する。原判決を破棄し、差し戻すべきである。「少なくとも」は、判断に必要な範囲で述べる趣旨で、他の外国人の除外が合憲という意味ではないとしている。
読みどころ
以下は、決定文から読み取れる点の整理である。
- 結論は上告棄却だが、多数意見は合憲・違憲のどちらの判断もしていない。この決定を「外国人の生活保護を合憲とした判断」として引用するのは正確でない。
- 反対意見は、行政措置による保護が法律上の権利ではなく、地方公共団体の裁量によるもので、実施されないときに不服申立てで是正を求められない点を、繰り返し問題にしている。行政措置の法的性格の整理(法定受託事務ではなく自治事務、通知は技術的助言)は、この論点を考えるうえで参考になる。
- 反対意見は、違憲とする範囲を、国籍国の保護を受けることが困難な特別の事情がある類型に絞っている。
本記事は公開された裁判例の紹介で、個別の事件についての法的助言ではありません。当事者名・地名の一部・裁判官名は記載していません。