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東京高等裁判所第2民事部 令和8年9月3日 令和8(ネ)1067 判決・控訴棄却
元従業員が社内資料を持ち出したことを理由とする会社の損害賠償請求について、持ち出しは捜査機関への通報目的であり違法性が阻却されるとした原判決を維持し、控訴を棄却した。
損害賠償請求控訴事件
- 事案
- 眼内レンズの製造販売等を行う会社である控訴人が、元従業員の被控訴人に対し、令和3年10月から令和4年3月までの間に、社内のデータベースにある資料(医師の個人情報を記載した顧客管理シート等の機密情報を含む)を貸与パソコンにダウンロードして私物のUSBメモリに保存して社外に持ち出し、報道機関に機密情報を提供したことが、不法行為又は債務不履行に当たると主張し、損害賠償4788万1500円等を求めた。原審は、報道機関への提供は認められず、資料の持ち出しは控訴人の贈賄行為を捜査機関等に通報する目的でされたと認められ、公益通報として違法性が阻却されるとして、請求を棄却した。控訴人が控訴した。
- 争点
- 被控訴人が社内資料を私物のUSBメモリで社外に持ち出した行為は、違法性が阻却されるか。
- 判断
- 裁判所は、原判決を相当とし、控訴を棄却した。裁判所は、持ち出された資料には被控訴人の業務と関係のない資料が含まれ、被控訴人には持ち出す権限がなく、就業規則に抵触し得る行為であったと認めた。そのうえで、被控訴人は、控訴人の贈賄罪に該当する行為に関する資料を発見し、その刑事責任の追及を目的として、捜査機関に情報提供をするために資料を持ち出したと認められるとした。被控訴人が告発状を提出し、複数の警察本部の捜査官からも資料の追加を求められたことも認定した。控訴人や上司への反感が動機の一因であった可能性があるとしても、通報が不正な目的によるものであったとはいえないとした。控訴人の主張に対しては、次のとおり判断した。(1) 被控訴人は通報の2年以上前から資料を無断で持ち出していたとの主張について、本件で問題となっているのは令和3年10月から令和4年3月までの持ち出しであり、別件の訴訟への証拠提出を目的とした持ち出しとは時期も情報の内容も異なる。(2) 通報と無関係な情報が多数含まれていたとの主張について、捜査機関は被疑事実を直接立証する情報のほか、その信用性を吟味するための周辺情報も必要とし、通報する者が、どこまでの周辺情報を捜査機関が求めるかを認識するのは困難であるから、直接関係のない情報が含まれていても、直ちに公益通報が成立しないとはいえない。議事録等も、犯行が組織的であれば意思決定過程も捜査の対象となること、捜査機関から求められた資料であることから、通報と無関係とはいえない。(3) 私物のUSBメモリの使用は就業規則違反であるとの主張について、紙への印刷やメール送信がより適切であったとはいえず、殊更に不適切な方法とはいえない。USBメモリの廃棄の真偽は不明だが、情報が流出する危険がある状態に置かれたとの事情はうかがわれず、USBメモリを回収不能にしたことのみで違法性を認めることもできない。損害に関する当審での追加主張については、損害賠償責任が認められない以上、損害の存否や額を判断するまでもないとした。
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